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No.266 白菜漬け

 2回続けて漬物はどうかしら、とは思いながら、ちょうど今が食べ頃の白菜漬けにした。

近頃、漬け物に凝っている。糠漬けはずっと以前から漬けているけれど、冬に仕込む漬物にはちょうど良い季節、と思って挑戦した。寒さで素材の甘みも増していて、美味しい白菜漬けが出来た。

初回なので白菜は半株。半株を4等分にして陽に干し、少し水分が抜けたところで塩をして下漬け、重しをして水が上がってから改めて本漬けにした。塩は控えめにして昆布、唐辛子と柚を入れた。

 私が生まれ育った関東や東日本では、白菜の漬物は一口大に切ってあるのが普通。野沢菜や広島菜なども同じ切り方で見てきたけれど、西日本では細かく切る事も多いようだ。確かに京都の漬物は細かく刻んだ物が多い。白菜漬けの細切りには始め少し驚いたけれど、食べ慣れてみるとこの方が口馴染みが良く、旨味を感じる気がして気に入っている。

 漬け物には少し深すぎる器だけれど、和のサラダ感覚で食べたくて沢山盛った。この器の本来の用途は火入れ。 火入れとは、茶道の道具のひとつで煙草盆に載せる。煙草に火を付けるための小さい火鉢のような物で、灰を入れて上に火の付いた小さな炭を置く。火入れは見込みの底部分には釉薬を掛けずに、土の素地が見えている。でも磁器なら汁が染みる事もないので料理にも使っている。

作者は 第4代  川本 半助 (生年不明〜1857)。文政5年(1822年)に家業の窯を継ぎ 「山半」や「真陶園」 の号で作品を残している。巧みな技量で 天保年間 (1830~1843) に尾張徳川家の御焼物師に任じられた。以後毎年、御紋付きの器を献上し、瀬戸を代表する窯となった。この 4代 半助 は名古屋から著名な南画の陶画師を呼んで絵付けをさせたそうだ。この火入れの様な、山水や花鳥など自然の風物や祥瑞を得意とした。この器にも下部には牛、上部には祥瑞で丸紋の中に細かく描き込まれた風物があり、とても見事で引き込まれる。見ていて楽しい器だ。

器 瀬戸焼 祥瑞 火入れ  径11cm 高9,3cm

作 第4代 川本 半助

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No.265 漬物

 裏庭の紅梅は二分咲き。白梅の蕾はまだ固く、毎年紅白が時期を同じく満開を迎える事がないのを少し残念に思う。日々、少しずつ陽が沈むのが遅くなり、植物も若葉や花の準備を始めている。本当なら庭に霜柱が出来そうな寒さなのに、乾燥していてそんな水分も無いのだろうか。

 梅の花が描かれている角鉢を使いたくて、何を盛ろうかと考える。明るい色は使われていないのに、梅から勝手に連想するせいか、華やかさを感じる。煮物、魚、お菓子、と考えてもしっくり来ない。深さが有る事で難しいのかしら、などと考えていて漬物を盛り合わせたらどうだろうと思い付いた。

ちょうど、本当なら作るのにとても手の掛かるたくあんを、お手軽に作れるレシピを見つけて先週漬けてみたところだ。生の大根の歯応えが少し残っていて、私にはこの位が食べやすいと気に入った。大根は数日軒先で干してから砂糖や塩、少しの酢と水で漬け込むだけ。でもしっかりたくあんの風味が感じられるから不思議だ。京料理のお店で、壬生菜としば漬けを買って来たので漬け物3種を盛り合わせ、それぞれの風味を味わった。

梅の角鉢は廣永窯のもの。しっかりした厚みで、側壁が高く立ち上がり、力強さを感じる。鉄釉と呉須だけの絵付けだけれど、表情豊か。卵焼きや海苔巻きなども似合うかも知れない。

器 梅繪 角鉢  径16,3x16cm 高5,2cm

作 廣永窯 

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No.264 寒椿

 もうすぐ大寒。1月20日からの約2週間、2月4日の立春までの期間が二十四節気の大寒に当たる。文字通り最も寒い時期を指すのだけれど、実際には立春を過ぎてもまだまだ寒さは続く。そんな寒さの中で咲く椿は品種も多く、花の時期は秋口から春先までと長いらしい。我が家の椿は咲き始めた物もあるけれど、まだ蕾だ。

 この豊前銘菓の “寒菊” は椿の花に雪が降り積もる様子を真っ白い砂糖で表している。醤油のおかきの上に甘く生姜が香る砂糖が掛かり、食べ飽きない味だ。寛政年間(1789〜1801)に小倉藩主に献上したという伝統のある銘菓だそうで、文字通り寒い時期に仕込み、完成までに約2ケ月を要するらしい。

この寒菊を 大野 昭和斎 (1912〜1996)の干菓子盆に盛った。桑の木の木目が美しい。この昭和斎は人間国宝 (重要無形文化財 木工芸) 。木目の美しさは自然の産物だけれど、人間国宝の眼がその素材を見極め、その技術に掛かると、この見惚れるような盆に仕上がる。細くてシャープな縁取りが皿の口に回り、繊細さが際立つ。

器 干菓子盆  径21cm 高1,7cm

作 大野 昭和斎

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No.263 鶏そぼろの卵焼き

お正月に、伊達巻の代わりにと思い付きで作ってみた卵焼き。お節は甘い料理が多いので、甘みを控えた卵焼きを、と考えた。でもだし巻き卵よりは日持ちが良く、しっかりした卵焼きにしたかった。それで思いついたのがこれ。いつも作るそぼろご飯の鶏そぼろを入れた卵焼きを芯に、外側を卵だけで巻いた二重構造。味もしっかりしていてご飯にも合い、満足の行く出来栄えだったのでまた作ってみた。

盛り合わせたのは黒豆と広島の漬物。漬物は胡瓜と人参を広島菜で巻いてある物で、以前よく食べていたのが懐かしく、久しぶりに買って来た。ご飯にも合うし、お酒にも合う。新年を祝う若松が描かれた皿に盛った。

 この皿は、初代 伊東 陶山(1846〜1920)の向附。明治から大正にかけて活躍した。横長で深さのある見込みに、美しい線で若松が描かれている。裏には脚が3本、高さが出るので御膳や食卓に並べた時のバランスも良い。見込みの絵の構図やバランスに目を惹かれて調べてみたら、12歳から円山派の画家 小泉 東岳 に絵を習い、その後東岳が手掛けていた作陶を手伝うようになって陶芸の道に進んだのだそうだ。私が惹かれた理由も、その辺りにあるのかも知れない。

陶山は京都の粟田口三条に生まれ、東岳に学び、その後、五条坂の陶工 亀屋 旭亭 に弟子入りして本格的な陶器製作を開始。三代 高橋 道八、村田 亀水、幹山 伝七、岩倉山 吉兵衛 などここにも登場している陶芸家の窯を訪ねて研究に励んだ。1867年、祇園白川に “陶山” を開業、茶器、酒器など創作性の高い作品を作った。明治に入ってからは洋食器や装飾品などを作り海外貿易にも積極的だったそうだ。

 季節を楽しむ食材や料理、そしてそれを盛り付ける器まで、それら全てを愛しむ日本人の “心” が和食の文化をここまで作り上げて来たのだと改めて思う。そしてそれをこの時代に享受する自分は幸せ者である。

器 若松繪 向附 五枚組  径19×10,5cm 高3cm

作 初代 伊東 陶山

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No.262 お正月の盛り合わせ

 歳を得るごとに時の経つのが早くなる。日々、それなりに忙しくしているのだけれど。特に昨年の夏の暑さは長かった。暑さが一段落したらあっという間に新年がやって来た。でも、もし病に臥せっていたら、と考えたら一日一日はとても長く苦しいだろう。だからこれは、健康で過ごせている証なのかも知れない。また今年一年、元気で過ごせる事を願う。

 年末を忙しく過ごしていたので、お正月料理はいつもの紅白の蒲鉾の他に、気に入った美味しそうな黒豆やなますを買い揃えて盛り合わせた。使った器は 飛来 一閑(ひき いっかん) の通盆。代と時代は不明。通盆とは、茶会や懐石で亭主が料理などを客人へ運ぶためのお盆の事。だから本来は直に料理を盛るものではない、のだけれど盛り合わせるのに大きさもちょうど良く、気に入っている。

飛来 一閑は、一閑張り細工の家で千家十職のひとつ。和紙を貼り合わせて生地を作り、それに漆を掛けて棗や香合などを作っている。初代は江戸時代初期 寛永6年(1629年)に、中国から渡来してきた明国の学者で、古代中国に伝わる乾漆工芸の印可を受けた技術の持ち主だったらしい。日本の良質な和紙を主原料に、独自の技術を考案したことが一閑張の始まりで、日本での創始者とされている。当代は16代に当たる女性が勤めているそうだ。

漆盆ではあるけれど、見込みの筋の凹凸が表情になって、器のように見えて来る。華やかな色の料理が美しく映える。

器 一閑張 通盆 5枚組  径22,5cm 高2,2cm

作 飛来 一閑 (代不明)

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No.261 フォー

 スープ用に、と肉屋の店頭で手羽先を袋に詰めて売っていた。骨で鶏ガラスープを取ったことは有るけれど、と興味が湧いて買ってみた。スープの取り方はガラと同じ、生姜と長葱の青い部分を入れた。暫く煮込むと、鶏ガラよりも少し白濁した、とろみのあるスープが出来た。

このスープを何に使おうか、と考えて思いついたのがフォー。米粉の乾麺を買って来て、鶏の蒸した胸肉ともやし、パクチーを載せた。まろやかな鶏のお出汁は優しく、身体が温まる。

残りを冷蔵庫で保管していたらゼラチンを入れ過ぎたゼリーのようにかたく固まっていた。鶏出汁が冷えて固まるのは何度も経験しているけれど、こんなにしっかり固まるのは初めて。ゼラチン質、とかコラーゲンと言うけれど、と思って調べてみたら、

「ゼラチンはコラーゲンというタンパク質の一種で、温かい状態では液体に溶けていますが、冷えると固まる性質があり、この性質を利用したものが、『煮こごり』や『ゼリー』です。」

とある。ゼラチンとコラーゲンて分けて考えていたけれど、と知らなかった常識をまたひとつ学んだ。

 少し小ぶりの鉢が良いなと思って、使ったのは 永楽 善五郎 の鉢。第12代 永楽 和全 (1823〜1896) のもの。外側は茶の釉薬で口周りに鉄釉を施し、それが垂れて景色を作っている。見込みには笹の葉が緑と青、そして雪景色の白で大胆に描かれている。永楽の鉢なので、基本的には菓子鉢であろう。まさかベトナム料理を入れるとは、と鉢も驚いているかもしれない。けれどスープや麺の白と鉢の見込みが溶け込んで、とても美しい。楽しみながらいただいた。

器 笹図 鉢 径17,3cm 高8,5cm

作 第12代 永楽 善五郎 (和全)

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No.260 糠漬け

 八百屋で表面だけが緑色の大根を見つけた。切ると、外輪がほのかに緑で、薄切りにしてサラダに入れたり、少し前は刺身の盛り付けにも使った。普通の大根に比べると細くて短い。水分は少なく、身が締まっていて少し硬い。これはきっと糠漬けにしても美味しいだろうなと思って漬けてみた。歯応えがあって水分が少ない分、味がしっかりしていて美味しい。盛り合わせたのは人参と胡瓜。

 お皿は萩焼で、吉賀 大眉 (よしが たいび) のものを使った。白い釉薬が厚く掛かり暖かみのある質感で、縁にだけ鉄釉で細く線が入っている。調べると萩焼の白釉薬は藁灰と長石が成分で、長石が入ると、藁灰だけの時より厚く掛かると説明されていた。

吉賀 大眉(1915〜1991) は萩に生まれ、東京美術学校で彫刻を学んだ後、萩に戻って陶芸に転向。独自の手法を編み出し、萩焼の芸術性を高めたとされる。この皿もその手法のひとつで、独自の白釉薬を使った “大眉白” と呼ばれるもの。暖かみのある乳白色の肌に瑞々しい野菜の色が映える。

器 萩焼 小皿 5枚組  径13cm 高4cm

作 吉賀 大眉

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No.259 祇園坊

 粉を吹いた干し柿を模ったこのお菓子の名前は “祇園坊”。和菓子店の季節の生菓子だ。飴餡を求肥で包み、表面の粉は和三盆糖をまぶしてある。干し柿その物もお菓子として好まれるけれど、それを他の材料で作ってしまう辺りが日本の文化だろうか。

長い歴史を持つその和菓子屋の説明を見ると、この和菓子が初めて作られたのはなんと、天保11年(1840) 。柿の品種名の祇園坊から “祇園坊柿形” の名で売られたそうだ。200年近く昔にオリジナルが作られたお菓子を現在も作り続ける店の歴史もすごいけれど、今見ても遜色無く、魅力を感じさせるお菓子が作られていたことに感動する。

それは器にも通じる。材料や道具が入手困難で水道やガスや電気も無い時代に作られた物が、この今の世に生きる私達にも感動を与え、輝きを放ち続ける。昔の意匠が優れていたからだけではなくて、時代が変わっても、本質的に美しい物を感じる私達 “人間の感性” は普遍なのだろう。

 この祇園坊には上野(あがの)焼の皿を使った。上野焼は現在の福岡県田川郡、当時の豊前国上野に開かれた。豊臣 秀吉の朝鮮出兵の引き上げの際に、加藤 清正が連れ帰った陶工、金 尊楷 (上野 喜蔵)が、細川 忠興の小倉城入城の際に招かれ、この地に窯を開いたのだそうだ。最初の窯は皿山窯(本窯)、釜の口窯、岩谷窯(唐人窯)の3つで、これらは上野古窯と呼ばれる。江戸時代には茶人にも好まれ、遠州七窯のひとつに数えられた。明治時代に一度衰退したが、1902年に復興、現在は指定伝統的工芸品の指定を受けている。

上野焼の特徴は、生地が薄くて軽い事と釉薬の色が多く、窯変によって千差万別の模様を作り出す事で、基本的に絵付けはされない。この皿も、釉薬が厚く溜まって盛り上がり、部分的に素地が見えている、この手法は紫蘇手と呼ばれる。紫蘇手は江戸時代後期に多く作られたらしいのと、裏の印からこの皿も江戸後期の物と推定される。5枚組で、それぞれの釉薬の模様はことごとく違っていて面白い。この、黒の紫蘇皿には祇園坊が良く似合う。

器 上野焼 紫蘇皿 5枚組  径12cm 高3cm

作 不明

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No.258 帆立の昆布締

 新鮮な帆立貝の貝柱は、それだけで甘くて美味しいけれど軽く昆布締めにすると味が凝縮し、旨味がねっとりと舌にからみつく。

 帆立貝の形をした皿には、やはり帆立を盛ってみたくなる。この皿はいつ、どこで作られた器なのか判らない。添っている箱が無いので情報も無い。皿を見ると、まるで古染付のような肌で裏には高台が無く、帆立貝を模した筋が走る。絵は西洋の更紗を思わせるし、呉須は縁取りのほんの一部に使われているだけでほとんどは赤、そこに所々金泥が乗る。東洋と西洋が混在する、華やかさと可愛らしさも同居する、不思議な皿だ。料理を盛るより飾って楽しむための皿なのかもしれない。

帆立の昆布締めは、八百屋で見つけた皮が翡翠色の大根、ブロッコリースプラウトと盛り合わせた。つまに工夫を凝らして盛り合わせるのも楽しみがある。

器 赤絵 帆立貝皿  径 縦16,5x横16cm 高 3,5cm

作 不明

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No.257 熱燗

 紅葉の季節。色付いた葉が青空に映え、乾いた風に落ち葉が舞う。寒い季節を思うと暗くなるけれど、長すぎた暑さを思うとほっとしたりもする。気温が定まらない今頃は、ちょっとした気温差で身体が欲する温度も変わる。冷たかったり温かかったり、熱かったり。

熱燗が美味しい季節になった。手付きの徳利は、第4代 清水 六兵衛 のもの。色付いた紅葉の葉が水に浮く様だろうか。円形の銅は、よく見ると縦に細い面が取ってあり、六兵衛らしさが見える。呉須と朱で描かれた秋の景色に、口周りと手に使われた金が華やかさを加える。

手が付いている徳利は珍しい。大きめに開いた口とその脇に丸い手が付いている事で、和食器から離れて西洋風な趣を感じる。酒ではなくソースやドレッシングを入れても使えそうだ。次は湯豆腐のたれを入れてみようか。

器 手付き徳利  径 6cm 高 11,5cm

作 第4代 清水 六兵衛